前十字靭帯とは
前十字靭帯とは膝にある靭帯です。
後十字靭帯と十字の向きに交差して存在するのでこう呼ばれています。
主な働きは3つです。
1.立っている時に脛骨が前に行くのを防ぐ
2.脛骨が内側にねじれるのを防ぐ
3.膝が過度に伸展(伸びる)するのを防ぐ
要するに膝が変な向きにならないよう制動しています。
前十字靭帯損傷の原因
前十字靭帯損傷の原因は3つです。
1.外傷性
アジリティーやフリスビーの最中などに急性断裂として起こることが多いです。
人で最も多いタイプですが犬での発生は約10%と言われています。
2.非外傷性
前十字靭帯の慢性的な病的変化により発症します。
病的変化の原因は分かっていません。
前十字靭帯が徐々に悪くなるので部分断裂からはじまり完全断裂に徐々に進行します。
両足に発生する事が多いです(両足同時10−17%、2年以内に反対足に発生30−40%)
犬の前十字靭帯損傷の約90%がこのタイプです。
3.二次性
少ないですが関節内の腫瘍、リュウマチ、クッシング症候群などに関連して発症します。
損傷した膝の状態は?
前十字靭帯損傷時のイラスト
前十字靭帯は脛骨が前方へ行くのを制限する靭帯です。
その靭帯が損傷する(①)ので脛骨が前に飛び出たように(②)なります。
多くのケースで図のように半月板が大腿骨と脛骨に挟まれて損傷します(③)。
好発年齢
4歳以上に多いと言われています。
好発犬種
主に大型犬(G.レトリバー、L.レトリバーなど)ですが、小型犬(ヨークシャーテリア、ジャックラッセルテリアなど)にも多く発生します。
症状
- 歩いている時に足をかばう(足をあげっぱなしにしたり、着地時間が短くなる)
- 立っている時に足をかばう(部分断裂の場合、立っている時に足をあげるだけで歩行は平気の事がよくあります)
- 座っている時に患足を投げ出す
診断
視診
姿勢
Sit test(お座り試験)
座っている時に患足を投げ出します。
これは前十字靭帯を損傷すると膝が腫れます。
そうすると膝を曲げることに違和感を感じるのでこのような症状が出ます。
立位
患足の負重減弱、挙上。
歩様検査
患足をかばって歩行、走行します(部分断裂ではハッキリしない事があります)。
触診
- 関節の腫れ
- 伸展痛(足を伸ばすと痛がる)
- 膝関節の不安定性確認
レントゲン検査
脛骨のズレや関節液の貯留を検出します。
関節液検査
腫瘍性疾患、免疫介在性関節炎(リュウマチなど)などの可能性を除外します。
関節切開術(確定診断)
全身麻酔下にて実施します。
視診〜関節液検査で前十字靭帯損傷の可能性が高い場合、手術を前提として実施します。
直接、目視下で前十字靭帯の状態を確認します。
同時に半月板の状態も確認します。
治療
保存的治療
15kg以下で症状が軽度の場合
- 運動制限、体重管理、鎮痛薬、サプリメント、鍼治療など
外科的治療
⒈外側種子骨脛骨縫合
(=Lateral Fabello-tibial Suture(LFTS),Lateral Suture)
種子骨と脛骨を強靭な糸でつなぎます。
前十字靭帯損傷で不安定になった膝関節を糸で安定させる方法です。
メリットは比較的安価な事です。
デメリットは糸の破損(切れる)や感染があります。
⒉TPLO
(=Tibial Plateau Leveling Osteotomy,脛骨高平部水平化骨切り術)
前述の通り靭帯が弱くなる原因は分かっていません。
しかし、弱くなった靭帯が切れやすくなる状況はいくつかあります。
その1つに脛骨『高平部』(イラストの黄緑色線)の傾きがあります。
高平部とは脛骨上の大腿骨の受け皿と思ってください。
高平部は通常大型犬は25°前後、小型犬は27°以上傾いています。
受け皿が傾いていると脛骨と大腿骨が赤矢印(イラスト)方向に移動しようとします。
その状態が続くと前十字靭帯に負担がかかり続けて、最終的に損傷(部分or完全断裂)につながります。
坂道をニュートラルの車が下っていくイメージです。
TPLOは脛骨を円形に切って回転する事でその坂道を5°(水平化)にします。
そうする事で大腿骨と脛骨骨の負担を軽減して、膝関節の安定化を期待する手術法です。
イラストのように青ラインの部分で骨をカットして矢印方向に回転させると脛骨高平部が“たいら”になります。(黄緑色ラインから黄色ライン)
そうする事で結果的に大腿骨にかかる負担が軽減します。
すなわちニュートラルの車が坂道を下らなくなります。
メリットは外側種子骨脛骨縫合(LFTS)に比べて回復が早く、合併症が少ないと言われています。
デメリットは様々な器具を使うためLFTSに比べ高価な治療となります。